営業心理学本おすすめの5冊で紹介している1冊。
今回はロバート・B・チャルディーニによる「影響力の武器-戦略編」を紹介する。
ロバート・B・チャルディーニはアメリカを代表する心理学研究の権威で、彼の「影響力の武器」という本は、世の中のマーケティング戦略本の元になった名著である。
ビジネスマンなら1度は読むことを勧められたことがあるかもしれない。
「影響力の武器」の中では、人を動かす力の要素には、「返報性」「一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」の6つがあるとし、それぞれの要素について様々な実験結果を元に解説している。
これらの要素はひとつひとつ見ていくと、感覚的には当たり前のことなのだが、それを科学として証明していることにこの本の価値がある。証明されているということはつまり、再現性があるからだ。
今回紹介する「戦略編」は、これらの要素をビジネスや日常生活における人の説得などに活かすための、より具体的な手法が53章に分けて紹介されている。
1つの章は2ページから6ページほどで、それぞれが独立しているため、目次を見て気になるところから読み始めることができる。
まず1つ、具体的に営業に活かせるであろう章の内容を詳しく紹介する。
20:「実績」に勝る「将来性」の魅力
自社こそ大口契約に値する企業だと新規顧客に納得させたい場合、これまでの実績と自分の将来性、どちらを強調すべきなのだろうか。
普通に考えると、これまでに既に達成されている実績は事実に基づいているため、将来性よりも遥かに説得力があるように思える。
ところが実際には将来性を強調したほうが、選ばれる可能性は高くなるという。
意思決定を行う人は、何かの分野で大成する可能性を持つ人を、同じ分野で実際に大成功している人以上に過大評価する傾向があるというのだ。
実績は既に起きたことであるが故に、疑問の余地がない。その一方で、将来性には不確実性があるためにより大きな興味を掻き立てやすいという。
だから将来性にはより相手を刺激し、より多くの注意を引きつけるという性質を覚えておき、説得に活用するのは非常に有効である。
これらを活用すると、営業の際には①将来的に相手が受け取る利益で相手を惹きつける→②これまでの商品アピールという順番で話す方が、より効果的だと言える。
このようにかなり具体的なことが数多く記載されている。副題の「小さな工夫が生み出す大きな効果」が示すように、この本で紹介されていることは非常に些細なことだが、侮れない効果を持つものばかりである。
他にも
・喜ばれるプレゼントの選び方
・ネットのレビューに信頼を与えるひと工夫
・納税期限を守ってもらうための簡単な工夫
・「先延ばし」に対処するためのスモール・ビッグ
・退屈な会議を一変させる4つの工夫
など、多岐にわたって活用できそうな「小さな工夫」が書かれている。
私がこの本の中から実践していることの一つとして、「自信なさげな専門家」の振る舞いがある。
一般的に人々は専門家は皆、自分の意見に自信を持っていると考えている。そのため、専門家が自信のなさを示すと、結果的に人の好奇心をそそるという。
だからはっきりとした唯一の正解があるわけではない状況の場合には、自分の提案に関する不確実性を隠したり取り繕ったりしないほうが、結果的に相手からの信頼を得たり、説得力を増したりといったプラスの結果になるというのだ。
実際に、ビジネスの世界では正解がわからないシーンがほとんどである。
もちろん、提案の内容はしっかりしたものであるべきだが、それでも現実では何が起こるかわからない。その不確定要素のことを隠さずに提示することが信頼構築になるのであれば、ごまかしたり取り繕ったりするほうが不利になる事がわかる。
割と厚めの本で文字も多いので、一般的な四六判のビジネス書に比べると固い印象がある本である。
しかし内容は非常に理解しやすい言葉で書かれており、特に今回紹介した戦略編はケース別に短い章で書かれているため、気になるところから読んですぐに実践に移す事が可能だ。
この影響力の武器シリーズは、あのメンタリストDaiGoも「大学生の頃に読んで人生が変わった」と紹介している。
営業以外のビジネスシーンでも大いに役立つので、ぜひ一度読んでみてほしい。
■影響力の武器-戦略編目次
納税期限を守ってもらうための簡単な工夫
集団との結びつきを利用したスモール・ビッグ
社会規範の効果的な利用法
わずかな環境の変化がもたらす大きなパワー
名前が生み出す驚くべき効果
共通点を探すことの大きなメリット
「よく知っている人」という思い込み
約束を守ってもらうためのスモール・ビッグ
行動力を倍加させる小さなコミットメント
思わぬ逆効果を防ぐためのひと工夫〔ほか〕
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